歴史の闇に葬られた映画の母 アリス・ギィを追ったドキュメンタリー『Be Natural』
久しぶりに気になる未公開映画について書きたいと思います。ここでいう未公開とは日本で公開されていないという意味です。日本での上映が始まった時点でこの投稿の意義はなくなりますが、皆様にぜひ知っていただきたいので書き留めておきます。
一本の映画で人生が変わる。
そんな女性の半生をNHK朝の連続テレビ小説で広瀬すずが演じています。彼女が演じる奥原なつはディズニー制作の映画 ファンタジアを見てアニメーターを志すようになったくだりは多くの方がご存知かと思います。
今回紹介したい映画はそれとよく似た人物のドキュメンタリーです。
時は1895年3月22日。映画史における記念すべき作品がフランス パリで上映されます。後にリュミエール兄弟の最初の映画『工場の出口』として知られるようになる作品です。
この作品の内輪向けの上映会に参加していたのがアリス・ギィ・ブラシェ(Alice Guy-Blaché )というフランス人女性。
シネマトグラフとも呼ばれていた技法の作品を見て彼女の中に一つのアイディアが浮かびます。
「この技術を使って物語を描いたらどうだろう?」
実はアリス・ギィは自分の得た着想を形にする手段を持っていました。当時彼女はある企業の経営者の秘書として働いていたのですが、そこが何と光学機器(写真機)を販売していたのです。
ちなみにその会社こそが現存する最古の映画会社 ゴーモン社です。
彼女はさっそく会社代表 レオン・ゴーモンの許可を得て映画製作に取り組みます。
当時の映像作品は人々が工場から出ていく様子や動く列車など、風景を撮ったものにすぎませんでした。
しかし彼女は自分で台本を書き、物語を演じる世界初の映画を製作します。
そのころからギィはゴーモン社スタジオの制作責任者としてより長編の作品や特殊効果を施した映像を発明していきます。
クローズアップ・彩色フィルム・音声と同期した映像など今の映画に欠かせない技法を次々と発明していきます。
代表作の一つとして知られるのは1906年制作の『La vie du Christ(キリストの生涯)』です。
翌年にはカメラマン ハーバート・ブラシェと結婚。1910年にアメリカに移住しガーモン社の音声と映像をシンクロさせた映写機の販売を始めます。
そして同じ年に自前の映画会社 the Solax Companyを設立します。
撮影時には壁に「Be Natural」という標語を掲げ、演者たちに演技指導をしていたというエピソードも言われています。
1896年から1920年の間に1000本以上の映画を製作したという記録も残っています。
彼女がハリウッド創世期に現場に立ち会っていたことは疑うことなき真実です。
そして当時唯一の女性映画監督。
だがしかし!
映画史の中で彼女の存在は完全に忘れ去られています。驚くべきことに彼女が存命のころから編纂される映画史からは彼女の存在が消されていたそうで。のちにアリス・ギィ自身が自分の功績を後世に語り継ぐために動いていたといわれています。
そんな映画の母 アリス・ギィ・ブランシェの功績を世に知らしめる伝記映画が2019年4月19日より米国を皮切りに公開されています。
監督はパメラ・グリーン。ナレーションにはあの大女優ジョディ・フォスターを起用しています。
このドキュメンタリー作品の中では映画史の闇に消されてしまった彼女の功績を丹念に掘り起こしていく過程が描かれています。
驚くべきことにこの映画の製作はクラウドファンディングで資金を集めたということ。
今からさかのぼること6年前。2013年にキックスターターで資金調達を成功させたことがこの作品が世に出るきっかけとなりました。
そして映画製作のために集められ古いフィルムの断片やインタビュー映像がvimeoの公式アカウントで公開されています。
この中にはアリス・ギィが制作した歴史上最初のオール黒人キャストの映画 『A Fool and His Money(1912年)』が含まれています。
オール黒人キャスト。そこには虐げられる人々の姿は映っていません。
当時の時代背景を考えればこのフィルムの歴史的価値をご理解いただけるのではないでしょうか。
長らくフィルムが失われていましたが、カリフォルニアのフリーマーケットで発見された非常に貴重な映像です。
UPDATE 2 Seeing Alice's Films A Fool and His Money (1912) from Be Natural on Vimeo.
映画好きの方なら絶対に見逃せない作品だと思われませんか?
予告編だけでも鳥肌の立つような物語が語られています。
日本公開は未定ですが、今から正座して待機しております。
この映画をきっかけに、わたしたちがまだ見ぬ偉大な女性たちに光が当たりますように。
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