中国から世界を席巻する田舎動画『三农视频』とは一体何なのか
(※写真は滇西小哥の動画より)
ここ数年、中国から世界に発信される田舎暮らし動画が注目を集めています。
中国でも一昔前のネット動画は悪ふざけで炎上を狙うものが多かったようですが、ここ数年で李子柒や滇西小哥に代表されるような魅力的な配信者が増えています。
さらに深堀りしていくと、決して撮影技術が優れているわけではないものの、素朴な田舎暮らしを発信するチャンネルが無数に見つかります。
日本では『ネットゲリラ』さんがいち早く中国発のムーブメントを日本語で発信してこられました。
『中国農村動画』『中国田舎動画』として知られるようになっている動画は中国でどのように受け入れられているのでしょうか。
中国でこれらの動画は一般に『三农视频(サンノンシーピン)』または『三农短视频(サンノンドゥアンシーピン)』と呼ばれています。
三农(三農)とは農業・農村・農民の総称で、1996年に中国の経済学者 温鉄軍氏によって提唱された概念で、徐々にメディアや政府によって使われるようになった言葉です。
これは農村における経済力や生産性の低さ、都市との経済格差、文化レベルの低さなどを指す『三农问题』の文脈で用いられてきました。
2010年代以降、中国全土に高速インターネットが広がるにつれて田舎動画の内容に大きな変化が生じます。
ただ注目を集めるための悪ふざけ動画は影を潜め、魅力的な田舎の姿を映し出し経済発展への道筋を開く『三农视频』の時代が幕を開けたのです。
三农视频の成功には少なくとも4つの理由が考えられます。
1.田舎のリアリティと素朴さが地元の特色と融合している。
田舎本来の姿を発信しようとすればリアリティは必要不可欠な要素です。
その土地に暮らす人々や作業で使う道具には真実味が求められます。
さらに中国の南方と北方では農村の暮らしぶりは大きく異なります。
その土地でのグルメや配信者が話す方言という特色が加わると唯一無二の個性が生まれるのです。
「見せたい田舎」と「見せたくない田舎」の絶妙な中間地点を発信することで、人々に愛される田舎像を作り出しているのかもしれません。
2.フォロワーとの対話
一方的に地元の情報を発信するだけでは視聴者は飽きてしまいます。
しかし三农视频の配信者は視聴者に参加を求めます。
何を見たいか、どこを映してほしいのか、さらには家のペットの名前の候補に至るまで、コメント欄やSNSを通してフォロワーと積極的に関わりあっていきます。
この動画への“参加感”が熱心なファンを生み出す結果となっています。
3.多様化する配信チャンネル
中国ネット市場が拡大するにつれて様々な動画配信サービスが生まれています。
たった1つのサービスではなく快手、微博、美拍など複数の配信サービス(アプリ)動画投稿をすることによって広い年齢層・広い地域に動画を届けることが可能になっています。
4.専門的な撮影スキルと物語性
日本と同じく中国でも一昔前なら手が出なかったような高性能カメラが一般ユーザーでも購入できる時代となっています。
さらに近年ではオンライン講座やQ&Aサイトで動画編集を学ぶ人も多いようです。
Vlogのように美しい画面と感情を打つストーリー。リアリティショーのように時間の流れとともに変化していく人と田舎の風景が多くの視聴者を惹きつけています。
政府は農業政策、農村の経済発展、農村の改革開放を推し進める。
配信者は農村の家庭の日常、美しい風景、農村の文化を題材にした動画を配信する。そして動画プラットフォームを経由した農作物の販売を行う。
この“政府”と“田舎の配信者”と2つの方向から力が合わさった時に『三农视频』が爆発的な人気を獲得するようになったという読み解きもあるようです。
2019年末から李子柒や滇西小哥が中央メディアで好意的に取り上げられていること。
中国各地の田舎配信者が地元行政と協力して貧しい地域の村おこしを行っていること。
状況証拠からすると三农视频の人気と中国政府のバックアップには密接な関係があることは間違いありません。
とはいえ、まことしやかに囁かれる政府の対外プロパガンダというよりは、農村政策と高速インターネットの普及の結果として生まれたムーブメントと考えたほうが腑に落ちます。
そして政府の暗黙の了解のもとに、中国大陸で封殺されているYouTubeでの動画投稿が進行しているのです。
この見立ては三农视频ブームの側面にすぎませんが、今後ますます注目されるこのジャンルを理解する上でお役に立てるのではないかと思います。
以下は参考記事。