ガラパゴスの蛙

ネットに漂うあれこれ

中国ネット界に突如あらわれたホームレス文化人 沈巍 (沈大师)

中国発のアプリ『TikTok』が爆発的な人気を得たのは記憶に新しいですが、大部分はおもしろ動画がシェアされているという印象があります。

 

ところが2019年に入って主に中国大陸のTikTokユーザーの間でバズっているのは、コミカルなおもしろ動画ではなく、ホームレス男性の動画なのです!

 

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見るからに近づきがたいこのおじさんの本名は沈巍(シェン・グイ)といいます。

 

1964年生まれ 54歳。

 

上海でホームレス生活を26年続けています。

 

かつては地方行政や企業の会計検査を担当する公務員として働いていましたが、今は病休扱いでお給料を貰いながらも路上で暮らしています。

 

物乞いにしか見えない姿にもかかわらず、撮影された動画の中では流暢な標準中国語で孔子孟子・経営・歴史・倫理を語る姿はまるで学校の先生か、はたまたテレビのコメンテーターのような口ぶり。

 

その教養の深さに人気が大爆発しています。

 

この人物はいったい何者なのか?

 

红星新闻が本人に直接インタビューを敢行した記事が様々なメディアで転載されています。

 

wxn.qq.com

 

子どものころから絵をかいたり歴史書を読むのが好きだったようですが父親は全くそんなことに関心がなく、幼いながらに資源ゴミを集めて売ったお金を足しにして本を買っていたそうです。

 

家に本を買って帰るときは、父に見つからないようにお腹に隠して持ち帰り、家族が寝静まってからこっそり取り出して読書をしていたと語っています。

 

強権的な父親の前でいつもおびえていた幼少期を過ごすことになります。

 

元々は文学や国際政治を専門に学びたかったそうですが、親の圧力もあり会計検査を専門に学ぶ道を選ぶことになります。彼にとってこの選択は人生の中での後悔の一つとなります。

 

大学を卒業後、1986年に上海のとある会計検査局で公務員として働き始めます。とはいえこの職業が好きだったわけではなく、やはり父親の圧力ゆえにこの仕事を選んだそうです。

 

仕事を始めた最初の日、オフィスのトイレで大量の紙が捨てられているのを目撃します。「もったいない。まだ使える資源をこんな風に捨ててはいけない」と思い立ちリサイクルに取り組み始めます。

 

その日以来、オフィス勤務の際にまだ使えるものを回収し始めます。例えば新聞紙や裏面が使えるコピー用紙などの再利用できるものです。

 

仕事態度はいたって真面目。残業で遅くなることもあり、オフィスに寝泊まりすることもありました。

 

そんな生活を数年続けたある1993年のある日、職場に匿名の告発があります。

 

「沈さん、オフィスのゴミを集めている」

 

帰宅すると当時70歳の祖母がベッドに座って「あんたの職場の上司が来て、あんたは狂っている。いつもごみを集めているっていってるわよ!」と叫ばれます。

 

あくる日、出勤すると何人かの上司がやって来て「オフィスの自分の物を片付けて自宅待機するように」と言いつけられます。完全に頭がおかしくなったと思われてしまったようです。

 

オフィスの節約のためにやっていたことなのに、こんな扱いを受けるなんて!

 

人生で初めて屈辱ゆえに泣き崩れたそうです。

 

その後、住まいを転々としていましたが、2002年を過ぎたあたりから親族からも完全に見放されて関係は断絶。ホームレス生活が始まります。

 

とはいえ、物乞いになったわけではありません。

 

自宅待機要員として職場からは毎月2000元(3万円弱)のお給与が振り込まれ、銀行口座には数十万円の預貯金を有しています。それに加えて父親の遺産、以前住んでいた家の立退料が十数万元。

 

そんなわけで、生活を支援しようとする人がいても、彼はすべて拒否しています。

 

日々、ごみを拾ってはお金に換え、それを資金に本を買う。

 

読書ジャンルは多岐に渡ります。美術、歴史、文学。ただ理数系は好みではないようです。

 

「”なんでも見てみよう”の精神で生きてきた。そういう人が社会に貢献できると思ってきた。でもこんな風に落ちぶれてしまうなんて思いもしなかった。幼いころから儒教の教えを受けて来て、政治家になりたいと思っていた。実をいうと、官僚になりたかった」

 

この言葉が痛々しいですね。

 

今年に入ってから、TikTokで公開された動画の中での博学ぶりに人々の注目が集まったことがきっかけでとんでもないことに。

 

ネット配信でひと山当てようとしている若い女性たちが殺到。

 

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さらに一緒に写真を撮ろうとする人が殺到してパニック。

 

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この人気ぶりに本人は困惑気味。以下のようなコメントを寄せています

 

今回ネット上で注目されていることには本当に驚いています。皆さんがわたしを『国学大師』と呼ぶ理由が分かりません。わたしはただ本を何冊か多く読んでいるにすぎません。今や外に出ることも寝ることもままならない状況です。24時間だれかがわたしを見ています。ただ空き家に身を寄せることしかできません。こんな生活が欲しかったわけではありません。 

 

そして3月25日、遂にその日がやってきます。

 

上海のホームレス文化人は白いベンツのお迎えと共にどこかに消えてしまいました。

 

人に注目されることに嫌気がさしたのか、路上生活をやめることにしたようです。

 

支援者の撮影した動画によると、伸びた髪を切り、失効した身分証の再発行も行ない社会復帰への道を歩んでいることが分かります。

 

 

ネットで注目されるのが嫌でホームレスをやめる、というのも奇妙な話です。

 

もちろん彼に対する批判の声も上がっています。

 

病欠扱いで仕事もしていない人間が毎月給料をもらえていること自体が中国のお役所っぽい、というツッコミもネット上では見受けられます。

 

とはいえ今後、沈巍さんが名もなき一般人として暮らすのか、再びネットの世界に姿を現すのか要注目です!

 

皆様もよろしければ是非に。